お酒の飲み過ぎが身体に悪いということは誰でも想像が付きますが、分かっていてもついつい飲んでしまうのがお酒。以前の記事「「シリコンバレー式」アルコールマップ~何を飲む?~」で、お酒を飲む人に向けたお酒の種類ごとの体へのダメージレベルをリストアップしました。基本geefeeでは飲酒は推奨していませんが、適度なアルコールの摂取は健康に良いという研究結果もあります。今回は、適度なアルコールが身体にどのような影響を与えるのかをお伝えします。
アルコールの過剰摂取による体への負担
過度のアルコールが身体に悪いということはみなさんも認識しているでしょう。実際に飲酒は、慢性肝炎や肝硬変[#]pubmeddev, and Et al Barrio E. n.d. “Liver Disease in Heavy Drinkers with and without Alcohol Withdrawal Syndrome. - PubMed - NCBI.” Accessed March 30, 2020. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/14745311. 、認知症のリスク[#]pubmeddev, and Et al Zuccalà G. n.d. “Dose-Related Impact of Alcohol Consumption on Cognitive Function in Advanced Age: Results of a Multicenter Survey. - PubMed - NCBI.” Accessed March 30, 2020. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11781507. 、2型糖尿病への影響[#]pubmeddev, and Et al Wei M. n.d. “Alcohol Intake and Incidence of Type 2 Diabetes in Men. - PubMed - NCBI.” Accessed March 30, 2020. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/10857962. など、死に至る可能性のある疾患の原因となりうる他、うつ病などの発症などとも[#]pubmeddev, and Boden J M And. n.d. “Alcohol and Depression. - PubMed - NCBI.” Accessed March 30, 2020. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21382111. 密接な関係を持っています。また、依存性が非常に強いのも特徴で、毎日食事中に飲む習慣が徐々にエスカレートして本人が気づかないうちにアルコール中毒症になっていた、というケースは思ったより多いのです。
飲む量で逆転するアルコールの健康効果
しかし、上記の場合はあくまでもアルコールの過剰摂取の場合で、適度なアルコール摂取は健康に良い効果があるのではないか、というのも、その真偽はともかく、一般によく言われていますよね。
では、適度なアルコールの量とはいったいどれ位なのでしょうか?
まずは、全米医療研究評議会(NHMRC)の調査に基づき作成された[#]Holman CDJ, English DR, Milne E, et al. Meta-analysis of alcohol and all-cause mortality: a validation of NHMRC recommendations. MJA 164: 141-145, 1996 、厚生労働省による適度な1日の飲酒の量を見てみましょう。
ビール |
500ml |
清酒 |
1合 |
ウイスキー |
60ml |
焼酎 |
180ml |
ワイン |
120ml |
この表からそれぞれの飲み物がだいたい1杯~1.5杯前後という事になります。
この量を参考に、以下の各疾患におけるメリットとデメリットを見てみましょう。
[週に1杯~6杯]
65歳以上の高年齢者において認知症のリスクが低下[#] pubmeddev, and Et al Mukamal KJ. n.d. “Prospective Study of Alcohol Consumption and Risk of Dementia in Older Adults. - PubMed - NCBI.” Accessed March 30, 2020. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12636463. “アルコールと認知症.” n.d. E-ヘルスネット 情報提供. Accessed March 30, 2020. https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-01-007.html. という研究結果もありますが、最近の研究では逆に少量の摂取でも認知機能の低下と脳の収縮のリスクが示唆されています[#]“New Study Says Even Light Drinking Can Harm Your Brain | Alzheimer’s Drug Discovery Foundation.” n.d. Accessed March 30, 2020. https://www.alzdiscovery.org/cognitive-vitality/article/new-study-says-e.... 。
[1日約1杯~3杯]
認知機能障害のリスク増[#]pubmeddev, and M. N. Verbaten. n.d. “Chronic Effects of Low to Moderate Alcohol Consumption on Structural and Functional Properties of the Brain: Beneficial or Not? - PubMed - NCBI.” Accessed March 30, 2020. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19330800.
心疾患
[1日約1杯~2杯]
1日1杯~2杯程度のアルコール摂取が血中の「善玉」コレステロール(HDL)のレベルを高め、動脈の詰まりを緩和する可能性があります[#]Agarwal, Dharam P. 2002. “CARDIOPROTECTIVE EFFECTS OF LIGHT–MODERATE CONSUMPTION OF ALCOHOL: A REVIEW OF PUTATIVE MECHANISMS.” Alcohol and Alcoholism 37 (5): 409–15. 。しかし、欧米の多くの専門家は、アルコールの様々な健康への悪影響を考えると、心疾患のリスク低下を目的とした飲酒は賢明な案ではないとしています[#]Trevallion, Lucy. 2017. “Does Drinking Alcohol Reduce Your Risk of Heart Disease?” British Heart Foundation. March 24, 2017. https://www.bhf.org.uk/informationsupport/heart-matters-magazine/news/be.... 。
[過度の摂取]
飲酒量が増えるほどリスク増加[#]“Is alcoholgood for the heart?” n.d. Accessed March 30, 2020. https://www.drinkaware.co.uk/alcohol-facts/health-effects-of-alcohol/eff....
2型糖尿病[#]pubmeddev, and Et al Baliunas DO. n.d. “Alcohol as a Risk Factor for Type 2 Diabetes: A Systematic Review and Meta-Analysis. - PubMed - NCBI.” Accessed March 30, 2020. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/19875607.
[1日1杯程度]
リスクが低下するという研究結果もありますが、アルコール飲料は種類によって糖質が含まれる量も大幅に変わってくる上に、個々の体質によって異なる影響が考えられるため、糖尿病のリスク軽減を目的とした飲酒は決してオススメできません[#]Gilchrist, Karen. 2017. “Regular Drinking Can Reduce Risk of Developing Diabetes, Study Suggests.” CNBC. CNBC. July 28, 2017. https://www.cnbc.com/2017/07/28/regular-drinking-can-reduce-risk-of-deve.... 。
[1日1L以上]
リスク増加
ガン[#]pubmeddev, and Et al Pelucchi C. n.d. “Alcohol Consumption and Cancer Risk. - PubMed - NCBI.” Accessed March 30, 2020. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21864055.
[1日1杯以下]
口腔がんと咽頭がん20%リスク増加
[1日4杯以上]
大腸がんと乳がん50%リスク増加
1日1杯程度であれば、健康を害することもなく、逆にリスク低下につながる可能性もありますが、口腔がんと咽頭がんのようにリスクが増加する疾患もあるので注意が必要です。また、アルコールを常用する人のほとんどに脂肪肝の兆候が見られるとも言われています [#]“Alcoholic Liver Disease - Liver and Gallbladder Disorders - MSD Manual Consumer Version.” n.d. MSD Manual Consumer Version. MSD Manuals. Accessed March 30, 2020. https://www.msdmanuals.com/home/liver-and-gallbladder-disorders/alcoholi.... 。この脂肪肝は、肝硬変、肝臓ガンなどの深刻な病気に進展する可能性がありますので軽視することはできません[#]“Fatty Liver Disease and the Link to Liver Cancer.” n.d. Roswell Park Comprehensive Cancer Center. Accessed March 30, 2020. https://www.roswellpark.org/cancertalk/201811/fatty-liver-disease-link-l.... 。
健康に良い印象の赤ワインも実はタバコと同じくらい悪い?
数年前に、赤ワインにはポリフェノールの一種で抗酸化物質であるレスベラトロールが含まれているので長寿につながる、といった報道があったため、赤ワインについて健康に良いという印象を持っている方も多いと思います。確かに、レスベラトロールにっは酸化ストレスと炎症を軽減[#]Copetti, Cristiane, Fernanda Wouters Franco, Eduarda da Rosa Machado, Marcela Bromberger Soquetta, Andréia Quatrin, Vitor de Miranda Ramos, José Cláudio Fonseca Moreira, Tatiana Emanuelli, Cláudia Kaehler Sautter, and Neidi Garcia Penna. 2018. “Acute Consumption of Bordo Grape Juice and Wine Improves Serum Antioxidant Status in Healthy Individuals and Inhibits Reactive Oxygen Species Production in Human Neuron-Like Cells.” Journal of Nutrition and Metabolism 2018. https://doi.org/10.1155/2018/4384012. するといった健康効果が期待できるという研究結果がある一方、レスベラトロールのサプリメントの効果が否定された研究結果もあります[#]Richard D. Semba “Resveratrol Levels and All-Cause Mortality in Older Community-Dwelling Adults”Accessed March 30, 2020. https://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/fullarticle/1868537 。さらに、レスベラトロールの健康効果を示した研究と同等の量のレスベラトロールを摂るには毎日100本程のワインを飲む必要があるのです[#] Richard D. Semba “Resveratrol Levels and All-Cause Mortality in Older Community-Dwelling Adults”Accessed March 30, 2020. https://jamanetwork.com/journals/jamainternalmedicine/fullarticle/1868537 [#]Corliss, Julie. 2018. “Is Red Wine Actually Good for Your Heart? - Harvard Health Blog.” Harvard Health Blog. February 19, 2018. https://www.health.harvard.edu/blog/is-red-wine-good-actually-for-your-h.... 。これでは、真偽がまだ明確でないレスベラトロールの健康効果が得られるどころか、アルコールを原因とした様々な病気になることは確実でしょう。また、赤ワインはブドウを皮ごと加工するため、除草剤やカビ毒や添加物などの有害物質が白ワインよりも多く含まれている傾向があります。また、赤ワインに含まれるタンニンが体に合わない、という体質の方も多いと思われます。イギリスの「BMC Public Health」が発表した研究結果によると、健康の観点からは、ワイン1本は5本~10本のタバコに相当するのだそうです。どうしてもアルコールを飲みたい場合は、アルコールロードマップにある通り、ウォッカや焼酎などの蒸留酒をソーダ水やウーロン茶など甘くないもので薄く割って飲むのがよさそうです。
養命酒などの薬用酒は?
1602年がその始まりとされている長い歴史のある養命酒。子供の頃に風邪の引き始めに飲まされたことがある人もいるのではないでしょうか?10種類以上のハーブが組み合わさったこの養命酒には、冷え症、肉体疲労、血色不良、食欲不振などの効果があるとされていますが[#](雅史 2014) 雅史結城. 2014. “第12回 養命酒.” ファルマシア 50 (4): 336–37. 、みりん、液状ブドウ糖、カラメルなども含まれており、かなりの高糖質。また、洋風のバーなどでよく見かけるドイツの健康酒のイエーガーマイスターには56種類のハーブが使用されているとの触れ込みですが、特に製造法や原材料は公開されていませんし、やはりその甘さからかなりの糖質が含まれていることがわかります。また、これらのお酒は、養命酒が14度、イエーガーマイスターが35度とアルコールの度数がそれなりに高いのも特徴です。ハーブ酒だから健康に良いと思って味が好きなわけでもないのにこれらを飲むのはgeefeeとしてはおススメできません。どうしても飲酒したいときは好きなお酒を少量飲み、特定のハーブを摂りたい人は厳選したものをサプリやお料理に使用して摂るべきでしょう。
アルコールの過剰摂取は肺の健康とも深い関係が!
過度な飲酒は、白血球の1種で感染を防ぐ役割を持つ肺胞マクロファージの免疫機能を損なうということが分かっています[#]T, Sadikot Ruxana, Bedi Brahmchetna, Li Juan, and Yeligar Samantha M. n.d. “アルコール誘発ミトコンドリアDNA損傷は肺胞上皮細胞と肺胞マクロファージ間の有害なクロストークを促進する - Bibgraph(ビブグラフ)| PubMedを日本語で論文検索.” Bibgraph(ビブグラフ). Accessed March 30, 2020. https://bibgraph.hpcr.jp/abst/pubmed/31307864. [#]Ashish J. Mehta, David M. Guidot. 2017. “Alcohol and the Lung.” Alcohol Research: Current Reviews 38 (2): 243. 。アルコールによって負担を受ける臓器としてはまず肝臓が思い浮かびますが、それ以外にも様々な臓器が損傷を受けるということも忘れずに。
お酒を飲むことでいくつかの特定の健康リスクが低下する、という研究結果は確かに存在します。一方、これらの研究結果はいずれも統計データに基づいており、実際に因果関係を調べたものではありません。人体で最も大切な機能とも言える認知機能や数種類のガンについては、いわゆる「適量」のアルコール摂取でも悪影響があることが示唆されています。したがって、健康のためにわざわざお酒を飲む、というのは間違った考え方であると言わなければなりません。一方、付き合いやストレス発散など、アルコールには体の健康とはまた別な意味で人生に潤いをもたらすもの。飲むのであるなら社交の場でたまに飲む適量のアルコールにとどめておくことを推奨します。飲むアルコール飲料の種類の適切な選択も大切ですので、このロードマップもご参考にどうぞ。
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