甘く官能的な食品、チョコレート。その歴史は古く、原料のカカオは紀元前2000年頃からメキシコで栽培されており、アステカやマヤ文明ではカカオ豆を貨幣として使用するほど珍重されていました。このカカオを15世紀にヨーロッパに持ち込んだのがコロンブスだったと言われています。
ヨーロッパの人々は、チョコレート本来の強い苦みを消すために、砂糖を加え最初は飲み物として楽しみました。19世紀には固形のチョコレートを製造する技術が生まれ、それ以降は主に固形の食べ物として広まっていきます。
チョコレートも立派なスーパーフード
当初は上流階級しか楽しめなかった貴重なチョコレートも、今ではスーパーの棚に溢れかえる充実ぶりです。様々な味や機能を追求した商品が並んでおり、その原材料や配合も多様化しています。チョコレートが長く愛され続けているのは、その甘美な味わいだけが理由ではありません。古来より薬として珍重されましたが、現代に至っても新たな健康効果が次々と発見され続けているスーパーフードなのです。ただし、チョコレートを単なるスイーツではなく、スーパーフードとして取り入れようと思うのであれば、注意を払うべきポイントがあります。まずはチョコレートに含まれる成分を取り上げます。
チョコレートに含まれている成分
テオブロミン、ミネラル、ポリフェノール
チョコレートの原料となるカカオの特徴的な成分は「テオブロミン」。カカオ豆の学名Theobroma(テオブロマ)に由来しており、利尿作用、脂肪分解作用などが報告されています[#]Franco, Rafael, Ainhoa Oñatibia-Astibia, and Eva Martínez-Pinilla. 2013. “Health Benefits of Methylxanthines in Cacao and Chocolate.” Nutrients 5 (10):4159–73. 。
またマグネシウム、カルシウム、鉄、亜鉛などのミネラル類や、食物繊維、フラボノイドも含まれています。
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マグネシウム |
カルシウム |
鉄 |
亜鉛 |
水溶性食物繊維 |
不溶性食物繊維 |
ミルクチョコレート(可食部100gあたり) |
74mg |
240mg |
2.4mg |
1.6mg |
1.0g |
2.9g |
「日本食品標準成分表2015年版(七訂)から引用
ポリフェノール量の比較 (mg, 可食部100gあたり)[#]Scalbert, Augustin, and Gary Williamson. 2000. “Dietary Intake and Bioavailability of Polyphenols.” The Journal of Nutrition 130 (8):2073S – 2085S.
ダークチョコレート |
840 |
リンゴ |
220 |
赤ワイン |
180 |
紅茶 |
100 |
抗酸化物質(ポリフェノール)を圧倒的に多く含んでおり、ダークチョコレートの場合、ポリフェノールが豊富といわれる赤ワインの数倍も含有しています。
カカオに含まれるポリフェノールの効果
脳の活性化:一日中休むことなく働いている脳の活動を支えているのは、脳由来神経栄養因子/BDNF(Brain-derived neurotrophic factor)と呼ばれる物質です。
BDNFはタンパク質の一種で、神経細胞の発生や成長、維持、再生を促進する役割があり、高度な思考と密接に関わっていると考えられています。脳の中でも学習や記憶に関わる部分に含まれ、神経細胞の動きを活発にさせていると言われています。カカオポリフェノールを摂ることでBDNFが上昇し、認知機能に役立つと考えられています[#]Neshatdoust, Sara, Caroline Saunders, Sophie M. Castle, David Vauzour, Claire Williams, Laurie Butler, Julie A. Lovegrove, and Jeremy P. E. Spencer. 2016. “High-Flavonoid Intake Induces Cognitive Improvements Linked to Changes in Serum Brain-Derived Neurotrophic Factor: Two Randomised, Controlled Trials.” Nutrition and Healthy Aging 4 (1):81–93.。
血圧を下げる:カカオに含まれるポリフェノールは血圧を下げる効果が報告されています[#]Wan, Y., J. A. Vinson, T. D. Etherton, J. Proch, S. A. Lazarus, and P. M. Kris-Etherton. 2001. “Effects of Cocoa Powder and Dark Chocolate on LDL Oxidative Susceptibility and Prostaglandin Concentrations in Humans.” The American Journal of Clinical Nutrition 74 (5):596–602. 。
動脈硬化の予防:カカオポリフェノールにはLDLコレステロールの酸化を抑えて、心臓血管疾患のリスク低減に好影響を与えることが報告されています[#]Nehlig, Astrid. 2013. “The Neuroprotective Effects of Cocoa Flavanol and Its Influence on Cognitive Performance.” British Journal of Clinical Pharmacology 75 (3):716–27. 。動脈硬化が起きる主な理由は、血管の壁にできるコブ(脂質プラーク)と考えられています。このコブは、血管の壁が傷つき、LDLコレステロールが壁に入り込んで酸化が進むことで作られていきます。LDLコレステロールの酸化を抑制するカカオのポリフェノールの作用は、動脈硬化の予防につながります。
抗ストレス:チョコレートに含まれるポリフェノールが、気分の改善に役立つと考えられています[#]Nehlig, Astrid. 2013. “The Neuroprotective Effects of Cocoa Flavanol and Its Influence on Cognitive Performance.” British Journal of Clinical Pharmacology 75 (3):716–27. 。また、チョコレートをとることで、特に女性において自覚しているストレスが低減するという報告があります[#]Al Sunni, Ahmed, and Rabia Latif. 2014. “Effects of Chocolate Intake on Perceived Stress; a Controlled Clinical Study.” International Journal of Health Sciences 8 (4):393–401. 。
美容効果:肌は年齢とともに衰えます。近年話題のアンチエイジングの分野において、「サビない肌」「サビないカラダ」というキーワードをよく目にします。これはサビ=酸化という例えの表現で、若々しさの鍵となるのは体を酸化させないこと、つまり抗酸化力にある、という表現です。カカオのポリフェノールには、肌老化の一因である活性酸素が引き起こすトラブルを防ぐ効果があることが確かめられています[#]Scapagnini, Giovanni, Sergio Davinelli, Laura Di Renzo, Antonino De Lorenzo, Hector Hugo Olarte, Giuseppe Micali, Arrigo F. Cicero, and Salvador Gonzalez. 2014. “Cocoa Bioactive Compounds: Significance and Potential for the Maintenance of Skin Health.” Nutrients 6 (8):3202–13. 。
チョコレートを選ぶ際に気をつけることは?
ポリフェノールに注目するなら、カカオ分がポイント
チョコレートと言っても様々な商品が売られていますが、ポリフェノールに着目して選ぶなら、カカオ分の量に注目すると良いでしょう。カカオ原料の多いチョコレートの方が、多くポリフェノールを含んでいるということが分かっています。高カカオチョコレート>ダークチョコレート>ミルクチョコレートの順にポリフェノールが多く含まれています[#]Ramirez-Sanchez, Israel, Lisandro Maya, Guillermo Ceballos, and Francisco Villarreal. 2010. “Fluorescent Detection of (-)-Epicatechin in Microsamples from Cacao Seeds and Cocoa Products: Comparison with Folin-Ciocalteu Method.” Journal of Food Composition and Analysis: An Official Publication of the United Nations University, International Network of Food Data Systems 23 (8):790–93. 。また、一般に、カカオ原料以外の原材料の多くは砂糖であり、カカオ成分が多いほど砂糖が少なく甘みよりも苦みが強いチョコレートになります。
どんなチョコレートも摂り過ぎには要注意
健康効果を期待しすぎて、過剰にチョコレートを取ることはおすすめできません。特に砂糖の摂り過ぎには十分気をつけましょう。チョコレートを摂り過ぎるとニキビになると言われていますが、一説にはニキビができやすいのは血糖値の急上昇も関わっていると考えられています[[#]Delost, Gregory R., Maria E. Delost, and Jenifer Lloyd. n.d. “The Impact of Chocolate Consumption on Acne Vulgaris in College Students: A Randomized Crossover Study.” Journal of the American Academy of Dermatology 75 (1). Elsevier:220–22. 。また、糖質が気になる方には、ステビアやエリスリトールなどの砂糖以外の甘味料を使用したチョコレートもあります。しかし、いずれにしても食べ過ぎはお勧めできません。
市販のチョコレートのうち、70%以上のカカオ分を含んでいるものは「高カカオチョコレート」と呼ばれています。前に述べた通り、カカオ分が多いと、ポリフェノールもより多く含み、糖分も少なくなります。しかし、カカオ由来のその他の成分も多く含まれているということに注意したほうがよいでしょう。
例えば、チョコレートにはカフェインも含まれていますし、前に述べたテオブロミンも含まれています。高カカオチョコレートは、カフェインとテオブロミンも一般のチョコレートより多く含まれています。カフェイン含有量は、一般のチョコレートでは~36 mg/100 gであるのに対し、高カカオチョコレートでは概ね80~120 mg/100 gという報告があります。ちなみにコーヒーのカフェイン含有量は60 mg/100g程度です。また、テオブロミンも高カカオチョコレートは一般のチョコレートよりも2倍以上多く含んでいます[#]国民生活センター. 2008. “高カカオをうたったチョコレート.” http://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20080206_2.pdf. 。
そのため、特に薬を服用されている方は、テオブロミンやカフェインとの飲み合わせには注意が必要です。またカフェインの感受性が高い方、妊娠中の方も、摂り過ぎには注意したほうがよいでしょう[#]国民生活センター. 2008. “高カカオをうたったチョコレート.” http://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20080206_2.pdf. 。
その他にも、金属アレルギーの原因でもあるニッケルを、カカオは比較的多く含む食品であると言われています[#]World Health Organization. 2005. “Nickel in Drinking-Water.”http://www.who.int/water_sanitation_health/gdwqrevision/nickel2005.pdf#s.... 。高カカオチョコレートでは一般のチョコレートよりもニッケルが数倍多く含まれているという報告もありますので、金属アレルギーの方も注意したほうがよいでしょう[#]国民生活センター. 2008. “高カカオをうたったチョコレート.” http://www.kokusen.go.jp/pdf/n-20080206_2.pdf. 。
また、金属アレルギーとは別に、カカオでアレルギー症状を起こす場合もあります。摂り過ぎには注意し、気になる症状があれば必ず専門医にご相談ください。
どのようなチョコレートを食べるにしても、ご自身の体質や含まれている成分を見極めながら、適切な量を摂取していくことが大切です。
神の食べ物と呼ばれて古代から尊ばれ、海を渡りヨーロッパの王侯貴族が愛したチョコレート。現代の私たちは世界中のチョコレートを選ぶ機会に恵まれています。摂り過ぎには注意しつつも、良好なパフォーマンスをもたらしてくれる究極のチョコレートのひとかけらをぜひ探してみてください。
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